連載童話「たばこ王国」第7回 文・絵:吉田 仁

(7)肺気腫の話

「王様」
ドクターブックは、陽気に声を掛けました。
王様は少し眠っていたようです。
王様は、目をこすり、ほっぺたを両手でたたいてから言われました。
「現実を直視しないといけない、問題点を全部理解しておかねばならない。」
「王として。」「続きを話してくれ。」
「次は、肺気腫という病気の話をしましょう。」
ドクターは、遠慮せず話始めました。
「タバコの煙は、気道を障害しながら、肺の隅々まで入っていきます。肺胞まで入っていきます。」
「肺は、この前も話しましたように胸の左右に二つあります。そして、口や鼻と気道でつながっています。」
「その気道の行きつく先は、両肺3億もの肺胞という非常に小さな風船です。この肺胞のかたまりが肺なのです。まるでスポンジのようなかたまりです。」

挿絵

「これで何が起こるかと言いますと。肺胞に接して走る気道を徐々にしめ付けていきます。」
「パンパンにふくらんだ肺胞によって、気道が圧迫されるのです。」
「空気はなんとか、入るのですが、出て行けないので風船はどんどんふくらむのです。」
「気道はどんどんしまってしまい、中の空気はさらに出ていくことが出来なくなってしまいます。」
「この状態を肺気腫といいます。」

連載童話「たばこ王国」第7回 文・絵:吉田 仁

「これで何が起こるかと言いますと。肺胞に接して走る気道を徐々にしめ付けていきます。」
「パンパンにふくらんだ肺胞によって、気道が圧迫されるのです。」
「空気はなんとか、入るのですが、出て行けないので風船はどんどんふくらむのです。」
「気道はどんどんしまってしまい、中の空気はさらに出ていくことが出来なくなってしまいます。」
「この状態を肺気腫といいます。」

連載童話「たばこ王国」第7回 文・絵:吉田 仁

ここで、ドクターと王様は、再びコップいっぱいの水をもらって飲み干しました。
「この病気が進むと、気道を空気が通らないので、まるで首をしめられているように息苦しくなっていきます。」
「肺気腫の患者さんは、息切れがすると訴えます。」
「はじめは、肺胞に近い細い気道だけがしめ付けられます。」
「ですから初めは、息切れの症状だけです。」
「しかしだんだんと、空気が出て行かないので、二酸化炭素(CO2)が肺胞にたまる状態になっていきます。」
「そして全身にも二酸化炭素(CO2)がたまっていきます。」
「ついには、もっと太い気道もしまってしまうと、空気が肺胞に入らなくなって、今度は酸素不足にもなってしまうのです。」
「今までの話と同じく、全身に酸素が送られなくなって、全身の細胞の酸素不足が起こってくるのです。」
「酸素ボンベが必要になってくるのです。」
ここでドクターは、大きな封筒からX線(レントゲン)フィルムを2枚取り出して続けました。
「肺気腫が進んでしまうと、肺胞はどんどん大きく膨らみ、両肺の間にある心臓と、肺の下にある横隔膜を、圧迫していきます。」
「このフィルムでも分かるように心臓は細長く縦に小さくなっています。そして心臓の下にも肺が入り込んできています。」

連載童話「たばこ王国」第7回 文・絵:吉田 仁

「もともと肺は、どうやって動いているのでしょう。」
王様は、はじめて見るX線フィルムに夢中になっているとき、急にドクターが質問しました。
「主にこの横隔膜が、ピストンや、鞴(ふいご)の働きをして肺を、動かしています。」フィルムの中の横隔膜を指差しながらドクターは続けました。
ドクターにフィルムを取られた王様は、またフィルムを取り返しのぞき込みました。
「その横隔膜が、肺に押しやられて十分な動きが出来なくなってしまいます。」
「どうですか王様。酸素不足に加えて、心臓の働きが悪くなり、さらに横隔膜の働きが悪くなり、三重の障害により、タバコは肺気腫になった人を動けなくしてしまいます。」
「最後には、先ほどお話した慢性気管支炎と同じく、一日中酸素を吸っていないと、苦しくて苦しくていられなくなってしまうのです。」
「王様、このように肺気腫は、タバコを吸っている限り、じわじわと進行していきます。」
「最初、思い荷物を持って階段を上ると息切れがする程度から始まり、最後には服を着替えるにも息切れするようになってしまいます。」
「身の回りのことすら、自分で出来なくなってしまうのです。」
「行き着く果ては、苦しみながら死を待つだけなのです。」
すがすがしい日なのに、王様はもうこれ以上聞く気力は残っていませんでした。
王様は無意識のうちに、部屋からバルコニーへ出て行かれました。バルコニーからは、このお城の広大なお庭が見渡せます。野も山も谷川もあります。
王様が出られた音を聞いて、一頭の太った雄鹿が王様のほうを見てから、すぐに野の先へゆっくり帰っていきました。

連載童話「たばこ王国」第7回 文・絵:吉田 仁

「タバコはもうやめよう。」そうつぶやきながら王様は、部屋に戻ってこられました。
「タバコはもうやめよう。国民にはタバコを吸うことを禁止しよう。工場も閉鎖しよう。」
王様は、ドクターに向かって宣言されました。
「これからは、この自然を大切にして、この国を発展させていこう。」
そう王様は、心を込めてつぶやかれてから、もう一度バルコニーへ出て行かれました。ドクターもついて出て行きました。
二人は肺いっぱい、すがすがしい空気を吸いました。
青い空、色とりどりに広がる山、きらきら光る谷川の水そして、野や森をかける鹿やうさぎを、眺めながら、ピッコロやフルートのような鳥の奏でるメロディーをBGMに二人は、ボーと見つめていました。
すると突然王様が、「これからは、この自然とともに生きよう。タバコなしで。」
再び、念を押すように言われました。
ドクターは王様のそばにより、優しく王様の肩に手を置きながら、「それがよろしかろうと存じます。」と答えました。

連載童話「たばこ王国」第7回 文・絵:吉田 仁

その時です。隣の部屋から大きな物音がしてきました。いや悲鳴のような声です。
急に扉が開いて、10歳くらいの少年が肩で大きく息をしながら、青い顔をして入ってきました。
「苦しい。」