連載童話「タバコ王国」第1回 文・絵:吉田 仁

このコラムには、何回か連載で童話を掲載します。

この童話は、教育用にも使えるように、中学1年生対象にやさしく喫煙の恐さを説いています。どうぞご覧ください。

院長が、以前尼崎市の小学校6年生禁煙教室に使用したものを修正したものです。

(1)酸素の話

最近、最近、ある国でこんな事がありました。
その国のことを、まわりの国々では、たばこ王国と、呼んでしていました。
それはなぜかというと、この国の国民は例外なく10歳になると、国営農場で栽培し、国営工場で製造した、タバコを買って吸い始めることになっていたからです

挿絵

そんなわけで、このタバコ収入が、この国の財政をうるおしていました。
この国の国民は、国に一銭も税金を支払わなくてよかったのでした。
ところが、この豊かな国の国王には、ずっと頭を悩ませていることがありました。
それは、この国が自然にあふれ、山海の産物も豊富に食べられるのに、まわりの国に比べて、国民の短い寿命、小さな体格、そして国民の多くが一日中咳をしているということでした。
さらに最悪なことは、産まれてくる子供の多くが、未熟児で生まれるということでした。
国王も例外ではありませんでした。国王も生まれてきたときから体は小さく、まわりの国々の国王と会っても恥ずかしい思いをすることが多いのでした。
実を言いますと、この国の国民は体格だけでなく、知性も少し劣っていたのでした。

連載童話「タバコ王国」第1回 文・絵:吉田 仁

ある時、国王は、少ない知恵を必死にしぼって、こんな事を思いつきました。
外国の偉い学者をやとい、その原因を探る決意をしたのでした。
大臣に世界中を探させました。そして見つけてきたのが、ドクター・ブックでした。

連載童話「タバコ王国」第1回 文・絵:吉田 仁

ドクター・ブックは、すぐにお城によばれました。 国王は、咳をしながら言いました。  「ドクターブック、我が国民の寿命がなぜ短いのか、そしてなぜ体つきが小さいのか。」
そして少し小さい声で「そして、どうしてあまり賢くないのか。調べてほしい。」
ドクター・ブックは、博識で、機知に富んでいたので、その原因がタバコにあることはすぐに気づきました。
そして、ドクター・ブックは、さっそく国王にそのことを話そうと、国王に面会を求めました。
国王は、機嫌よくドクターに会われました。
「さすがはドクター・ブック、その顔つきから、どうやら原因が分かったようだね。話してくれたまえ。」
「王様、これからお話することは、誠にお話しにくいことですが。・・・」
ドクターが少し、遠慮して言うと。
「かまわぬ、話してくれ。」
「それでは、お話します。この国の災いは、すべてタバコが原因と思われます。」
「何。タバコだと。タバコのどこが悪いのじゃ。」と驚きながら、咳をしました。  「タバコには、ニコチンと・・・」と話し始めました。
すぐに王様は、反応して、
「何、ニコチン、それは何じゃ、ゴフォ、ゴフォ、」
そんなわけで、ドクター・ブックはまず、ニコチンの害について話すことになりました。
賢明なドクターは、一度に難しいことを話しても王様には理解ができないと考え、少しずつ話していくことにしました。
「王様、ニコチンの話をする前に、人間を含めほとんどの動物が、どのような仕組みで生きているか、そして動いているか、お話しなければなりません。」
そう言ってドクターは、説明のための紙を、王様の前に広げて見せました。

連載童話「タバコ王国」第1回 文・絵:吉田 仁

「人間、そして動物、さらには人間の作った機械まで、ほとんどすべてが、ここに示します反応式にもとずいて活動しています。」
「動物は、口から食べ物を食べ、胃や腸から体の中に栄養素を吸収します。」
「これは、機械なら燃料に当ります。自動車ならガソリンです。」
「また動物は、息をすうことで、肺から空気中の、酸素(O2)を体の中に取り入れます。機械も吸気口から酸素(O2)を取り入れます。」
「そうして、体の中に入った、酸素(O2)と、栄養素は、血管という道を通って、体のすみずみの細胞まで運ばれます。」
「80~90兆個(8,000,000,000,000個)もの、からだの細胞ひとつひとつに運ばれます。」
「そこでこの化学反応が起き、エネルギーが作り出されるのです。」
「動物は、このエネルギーで、生きているのです。自動車なら走るのです。」
「その時、一緒に、二酸化炭素と水という、体にはいらないものも、作られてしまいます。」
「このいらないものは、はく息の中や、おしっこや汗として体の外に出て行きます。自動車なら、排気ガスです。」
ここで、ドクター・ブックは、王様の真剣な目を見て、安心して続けました。
「動物の場合、酸素(O2)は、血管の中を運ばれるとき、特別に、赤血球というトラックで運ばれます。」
「このトラックには、ヘモグロビンという名前の、荷台がついていて、酸素(O2)は、その上に乗って運ばれます。」

連載童話「タバコ王国」第1回 文・絵:吉田 仁

ドクター・ブックはこの部分を話すと、再び王様の表情を見ました。
そしてもう一度安心して、話を続けました。
「王様、ここまで理解されましたか。エネルギーは、酸素(O2)の力で作られるのです。ですから、動物は、酸素(O2)がないと生きていけないのです。」
「もし、酸素(O2)がなくなると、その部分は、生きていけずに死んでしまうのです。」
「王様には、もうお分かりのことと存じますが。体の中で、大事な部分に酸素がなくなってしまうと、その部分が、うまく働かず、病気になって早く死んでしまうのです。」
「例えば、脳こうそくや、心筋こうそくという病気は、それに当ります。」
「それが、発育途中の子供の場合では、十分な発育が出来なくなったりします。」
「もっと恐ろしいことには、お母さんがタバコを吸うと、お母さんのおなかの中にいる赤ちゃんも、うまく成長出来なくなります。そして、未熟児が生まれるのです。」
そこでドクターは話を切りました。そして大きく深呼吸をしながら、王様が口を開くのを待ちました。
「そうか、人間が生きていくためには、酸素(O2)が無くてはならないという事じゃな。」
王様はうなずきながら言われました。
「そうなんです。王様、何かの原因で酸素(O2)が、体のすみずみまでいかなくなったら、人間を含めた動物は病気になって最後には死んでしまうのです。」

連載童話「タバコ王国」第1回 文・絵:吉田 仁