医療法人 葉月会 吉田クリニック

 

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連載童話第四回

文、絵:吉田 仁

 

たばこ王国

 

 ドクターが、バルコニーから部屋に入ると置き去りになっていたシガーサポートが目に入りました。
 ドクターはすぐにゴミ箱にフリースローしてしまいました。
 そしてゆっくり振り向くと王様がそのゴミ箱を悲しそうに見つめておられたのでびっくりしました。

 

(4)タールの話

 

 でも気を取り直し続けました。
「王様、人間の体には、もともとないはずのガン細胞や、体の外から入ってきたばい菌など有害なものを、退治してしまう働きがたくさん備わっています。これを免疫といいます。」
「ですから普通は、この働きで、突然変異で造られたガン細胞も殺されてしまうのです。これをガン免疫といいます。」
「ところが王様、タバコの煙には、タールが大量に入っています。」
「そのタールに入っている物質の中には、このガン免疫の力も奪ってしまう働きをしてしまうものがあるのです。」
 ドクターは、少し難しいかなと思いましたが、
「ですから、タバコのタールには、正常の細胞をガン細胞に突然変異させる能力と、出来てしまったガン細胞を殺させられなくする能力の二つを持っているということなのです。」と続けました。

 

(4)タールの話

 

 「そうです。タールは、二重に悪魔の細胞の塊、ガンを発育させているといえるのです。」
 ここまで来ると、王様は、口出しの出来る立場ではありませんでした。  ドクターの話す言葉にただ咳をしながら、うなづくばかりでした。
「タバコを吸うことで一番なりやすいガンは、肺ガンです。」
「普通、タバコを吸わない100人のうち1人くらいが肺ガンになると言われています。」
「ところが、タバコを吸っている人なら、100人中、20人から30人も肺ガンになると、まで言う学者がいます。」
「さらに王様、肺ガンは、治りにくいガンです。死亡される方も年々増加しているのです。」
 ドクターは、紙に描かれた表を王様に見せながら続けました。
「この表は、アジアの島国の、ある学者が調べたものを、表にしてあります。」
「タバコを吸う人が一日にすう本数と、吸わない人に比べて何倍の人が、肺ガンで死ぬかを表にしてあります。本数が増えると死ぬ確率が増えていくのです。」
「恐ろしいことに、王様、一日40本以上吸う人は、吸わない人に比べ、20倍以上肺ガンで死ぬ可能性があるのです。」

 

(4)タールの話

 

「王様のお国の国民の寿命が短いのは、そのためだと存じます。いかがでしょう。」
「王様のお父様、おじい様、そのまたお父様も、何かのガンでなくなられたと聞いています。」
 王様の目から涙がこぼれ落ちてきました。
 沈黙が部屋中を満たしてきた、その時です。突然、ドクターシガーがニコニコ顔で、部屋にかけこんで来ました。
「王様、王様、新しい機械を急いで開発いたしました。これでございます。シガーサポートマーク2と申します。」

 

(4)タールの話

 

 ドクターシガーは得意そうに続けました。
「この機械を使ってタバコを吸いますと、なんとニコチンや一酸化炭素(CO)だけでなく煙を吸いません。ですからタールを吸うこともございません。一度お試しください。」  そういうとドクターシガーは、タバコをシガーサポートマーク2に取り付け火をつけました。
 そして、王様に差し出しました。
「王様、どうぞお試しください。」
 王様は、それを取って胸いっぱい思いっきり吸い込みました。
「何じゃ、これはただの空気ではないか。」
「しかし、すがすがしいのう、この空気は。わが国の空気はうまいのう。」
 王様が言われました。
 得意満面のドクターシガーの顔が、だんだん曇ってくるのを見届けながら、ドクターブックは口を開きました。
「ところが王様。王様が吸われた空気はきれいな空気になってしまっていたと思いますが、燃えているタバコの先から出る煙や、タバコを吸った人の吐く煙の中には、本人が吸う煙より数十倍の発ガン物質が含まれていることをご存知ですか。」
 ドクターブックは、新しい紙を出して説明を続けました。

 

(4)タールの話

 

「タバコを吸っている本人が吸う煙を、主流煙といいます。それに対して、タバコの先から出る煙や、吸った人が吐いた煙のことを、副流煙と言います。」
「実は今までお話してきた、タバコの三大悪は、副流煙の方が、3から5倍多く入っているのです。」
「発ガン物質にいたっては、数十倍以上は入っていると言えるのです。」
「ですから、私のようなタバコを吸わない人でも、タバコを吸う人の身近にいるだけでガンになりやすいのです。」
 王様は、すでに気づいておられました。
 この国の空気のなんと清らかなことを、美味しいことを。そして、大きな声を張り上げて。

「ワッハハ、ワッハハ」と、笑いましたが、すぐに咳に変わってしまいましたが、それでもドクターシガーに向かっておっしゃいました。
「もうよい。ドクターシガー、下がれ」
 真っ赤な顔のドクターシガーは、回れ右して、ズボンから出た白いシャツをひらひらさせながら、部屋から出て行きました。まるで敗戦の白旗を振るように。
 王様は、小声で言われました。
「もうタバコはやめよう。国民がタバコを吸うのを禁止しよう。」
 その言葉を聴きドクターブックは、王様が少しかわいそうに思いましたが、なぜか充実感を味わいながらいいました。
「よくお気づきになられました。」
「そうされますことが、王様のお仕事だと存じます。」
「きっと10年もたつと城下の広場に王様の銅像が建つことと存じます。」
「後世の国民は、王様のことを”健康王”とたたえましょう。」
「ふんふん」と王様は満足そうにうなずかれました。
 ところが、突然、王様は、満面に笑みを浮かべて、勉強熱心な子供が先生に見せるような目をしながら、しかし咳をしながら、質問されました。
「ドクターブック。ついでじゃが。もうひとつ質問がある。」
「わが国民は、なぜ一日中せきばかりしておるのじゃ。」
突然の質問にドクターブックは驚きましたが、すぐに愛すべき生徒に温かいまなざしを向けながら何度もうなづきました。

 

(4)タールの話

 

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